2023年4月

 春のミンスクからです。今年の4月26日で、チェルノブイリ原発事故から37年が経過しました。今回は現地の教育機関、美術・芸術専門ギムナジウム-カレッジで、チェルノブイリ事故からの教訓を学ぶ授業風景を取材させていただきました。8年生のグループを担任するイリーナ先生と、彼女の生徒達のインタビューをお届けします。

 事故日の翌日にあたる4月27日、イリーナ先生のクラスでも毎年恒例のチェルノブイリ原発事故を振り返る授業が行われました。教室の天井にはたくさんの折り鶴が飾られていました。席についた生徒達は順番に事故の経緯をリレー形式で振り返っていきます。その後、男の子二人によるプレゼンテーションが始まりました。専門的なデータをスライドで見せながらチェルノブイリと福島の原発事故による比較をテーマに調べたことを発表しました。15分ほどの間に子供達は改めて事故の恐ろしさを再認識し、それが二度と起きてはならないという思いを胸に刻みます。この時期になると各学校・クラスでこういった式典や特別授業があります。

特別授業の様子

 参加者のイリーナ先生(個別インタビュー)と10人の生徒達(グループディスカッション)に以下の質問に答えてもらいました:

①チェルノブイリ事故について知ったのは
②親戚や知り合いのなかでチェルノブイリ事故の健康被害を受けた人は
③毎年行われているチェルノブイリを振り返る授業や式典で思うことは
④福島で起きた同様の事故について?
⑤将来のビジョンや日本のイメージ等は

イリーナ先生(47歳)

①チェルノブイリ事故について知ったのは?

私が10才の時に、母が仕事から帰ってくるなりヨード、その薬を飲むように言われました。そして、チェルノブイリ原子力発電所で起きた事故のことを聞かされました。まわりでの話題もそのことばかりで、原子力エネルギーが漏れているというのは、とても怖いことだった。小さい時に学校で習って知った、広島で被爆しながらも治ると信じて鶴を折り続けた女の子(佐々木禎子さん)の話を身近にも感じていましたから。

②親戚や知り合いのなかでチェルノブイリ事故の健康被害を受けた人は?

まわりで、事故の影響で健康被害を受けたと認められる障害者手帳を持っている知り合いはいません。私にも母(75歳)にも甲状腺の問題はあったけど、それが原因とは必ずしも言いきれなかった。私の場合はオペの必要はなく、母は手術を受けるのを断ったけど大きな問題もなく過ごしています。

③毎年行われているチェルノブイリを振り返る授業や式典で思うことは?

ここで事故のことを振り返るたびに、止めることのできなかった悲劇に胸がいたくなり、二度と起こらないようにと願うばかりです。また、自らを犠牲にして消火活動にあたった英雄達の勇気には頭が下がります。こういった場(式典・授業)には、自分から進んで出席して教訓を学ぼうとする生徒達が多くいます。事故が繰り返されないよう、この歴史を忘れないことが大事です。

④福島で起きた同様の事故について?

福島で起きた原発事故のことは、人づてに聞いて知りました。町の復興、健康被害を克服しようと頑張っている人達に声をかけるとしたら、いま生きているなかで喜びを見いだすことの大切さを伝えたいです。日本ほどその素晴らしい瞬間に出会える国はないし、この人類共通の問題も協力して解決していけるはずです。それが輝かしい未来へと続く道になると思います。

⑤将来のビジョンや日本のイメージ等は?

文化の宝庫である日本には必ず行ってみたい。多くの人が、誠実さ・美・尊厳を重んじる和の文化に憧れています。

8年生

①チェルノブイリ事故について知ったのは?

(イ)僕は学校で知った。3~4年生の時だったと思う。

(マ)常に繰り返し話されていたる歴史なので、以前から知っていた。

(ア)私は10~11歳の時に両親から聞いて、その後インターネットでも興味を持って検索したりもした。

(ヴィ)幼稚園の時にそのことを振り返る授業のようなものがあって。そのあと両親からも。

(ヴァ)学校で、そのあと両親から話を聞いて。

(パ)両親から、そしてインターネットで読んで。

(ソ)私は学校で、それからビデオなどを見て詳しく。

(マイ)幼稚園で、その時にこのような特別授業があったのを覚えている。

(エリ)5年生の時に学校で。

(エヴ)小学生(1~4年)の時に。

②親戚や知り合いのなかでチェルノブイリ事故の健康被害を受けた人は?

(イ)いません。

(マ)いないです。

(ア)重い病気にかかった知人はいないけど、原因不明で先先天性疾患のある親戚がいます。もしかしたら放射能の影響かも。

(ヴィ)病気の知り合いはいないけど、私のおばさんはそのような健康被害を受けた子供達をサポートする活動に取り組んでいた。

(ヴァ)いません。

(パ)両親の従兄弟が髄膜炎にかかっていたし、祖父母の兄弟はゾーンに入りその後、関節に問題が出て人工のものに変えなければいけなくなった。

(ソ)いないです。

(マイ)祖父達は事故現場に近い地域に住んでいたけど、故郷を捨てきれずそこから去ろうとはしなかった。幼かった母が説得に向かったけど、応じてくれなかった。その後の彼らの健康状態がどうなっているかは分かりません。

(エリ)いません。

(エヴ)いないです。

③毎年行われているチェルノブイリを振り返る授業や式典で思うことは?

(イ)恐ろしい出来事だと実感する。

(マ)このような事故があったのかと考えるとこわくなるし、二度と起こらないよう記憶にとどめておくことが大事だと思う。

(ア)当時も今も苦しんでいる人がいるという悲しい出来事です。消火活動にあたった英雄達やこの問題の解決に向けて努力している方々を尊敬します。

(ヴィ)このように毎年思い出されることで、間違いが分かり、繰り返されなくなるはずです。

(ヴァ)想像するのは難しいですが、もしその場にいたらと想像するとこわくなります。

(パ)放射能の恐ろしさを感じるし、これ以上おなじような事故が起こらないでほしい。

(ソ)救済が困難な放射能被害の恐怖を感じます。

(マイ)自分ではどうにもできない無力さを感じてしまいますが、そんな状況でもゾーンにいた人々や子供たちを助けた方々のやさしい心を大切にしたいです。

(エリ)どこにも消えることのない放射能の恐怖を感じます。

(エヴ)毎年このことが私たちに話されるのは、同様の悲劇が二度と起きないようにするためだと思う。

④福島で起きた同様の事故について?

(イ)インターネットで知りました。

(マ)最近になってインターネットで。事故が起こった後の土地を観光で訪れる動画を見ましたが、がらんとしてコンクリートだけが目立つその様子に、以前たくさんの人が住んでいた光景が一瞬にしてなくなる恐怖を感じさせるものでした。

(ア)私も知ったのはごく最近です。現段階で放射能を完全に消去するのは難しいですが、人々がお互いを無償で助け合う心を持った時、それは問題解決のスピードアップにつながるはずです。

(ヴィ)最近になって知りました。具体的な復興の方法は分からないけど、被害を受けた人々を救うのは心の支えだと思います。

(ヴァ)インターネットで知りました。みんながねばり強く希望を捨てなければ、復興・救済のチャンスは必ずやってきます。

(パ)私は両親から聞いた後、インターネットで多くの情報を知りました。救済方法は分からないけど、苦しんでいる人達に手を差しのべ続けることが必要です。

(ソ)より詳しく知ったのは最近のことです。土地の汚染を取り除くことが重要です。そこでは原子炉冷却水・処理水が海洋に放出してると聞いたけど、それは一刻も早く止めるべきで、でないと海上で国境を超えて汚染が広がりかねないし、さらに多くの人や動物が苦しむことになってしまうから。

(マイ)インターネットで知りました。技術的だけでなく、精神的なサポートが大事になってくると考えます。

(エリ)最近知ったばかりです。どう復興させていくかは難しい課題で、なぜなら放射能は長いこと残ってしまうものだから。

(エヴ)私も最近知ったことで、復興に向けて頑張っている人達へのサポート継続が大事だと思う。

⑤将来のビジョンや日本のイメージ等は?

(イ)僕は都市を文化的・社会的に開発・建設していく仕事に就きたい。

(マ)まだなにになりたいか分からないし、それを決めれることは一生ないかもしれないけど、その場にとどまらず常に何か新しいことを求めて旅を続けたい。

(ア)創造とITの分野でグラフィックデザイナーか建築家になりたい。日本は私にとって最も発展・進化した国のひとつで、美しい景観とおいしい食べ物が魅力です。

(ヴィ)私は先ずいい人間でありたい。そして何かで有名になりたい、グローバルな問題を、例えば福島で起きた事故後の復興を経済的に支援できるような。

(ヴァ)まだ分からないけど、アートとインターネットに関連した分野で働くことになると思う。日本文化・日本語は(初めてきいたときから)大好きです。

(パ)デザインマネージャーになりたいです。日本の文化、食、建築は興味深いです。

(ソ)なにになるかはまだ決めれないけど、発展してきた歴史を持つ日本には将来ぜひ行ってみたい。

(マイ)私は自分のアイデアで様々な国の文化・言語・宗教にとって重要な役割を果たすような職業に就きたいし、人々の感心を自然・動物界や環境問題にひきつける仕事がしたい。具体的な案はまだ浮かんでこないけど。

(エリ)なにになれるか分からないけど、可能性のあることにはチャレンジしていきたい、少なくとも自分の興味があることには。日本の美しい自然と建築様式には感動します。

(エヴ)将来像を決めるのはとても難しいことです。日本にはとても行ってみたくて、その文化・自然・建築に大変興味があります。

 十代半ばでここまでしっかりした考えと意見を持って、それを自分の言葉でちゃんと表現するこの子達の賢明さに感心しました。だからこそ、担任のイリーナ先生も彼らの自主性を尊重しており、今回の特別授業の参加・発表も各自の判断と希望による自主的なものだと言いきれるのです。素晴らしいチームづくりができています。そんな自慢の教え子達も、先生自身も日本のアニメ、特に宮崎駿監督の作品には高い感心を寄せています。美術を専門に学ぶだけあって、その美しい描写技術に魅せられているようです。

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