2024年・年末年始・

 こんにちは、(2023)年末(2024)年始のミンスクからです。前回11月末のレポートでお伝えしていたマイナス10℃の極寒から一転して、気温がぐんと上がり、0度前後の日々が続きます。近年はこのお祝い(クリスマスと正月)の時期に限って暖かくなってしまうので、真っ白な雪に包まれる美しい景色が恋しいようで。ただ、新年を迎えるとすぐに氷点下十度の銀世界に逆戻りしました。天気予報を常にチェックしながら寒さのレベルに合わせた服装選び・食事・体調管理が大事になってきます。今回は、この時期お祭りムード一色で盛り上がる市街から、現地の伝統・近代・国際的…様々な面を紹介したいと思います。

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 まずは、ミンスク最大級のアトラクション・パーク<パルク・テェリュースキンツェフ>(駅名にもなっている)近くにある<ベスト・ストリート>通りと呼ばれる飲食店屋台が立ち並ぶ一画で、12月22日(金)~24日(日)の間に行われた”オープン・クローゼット”出店フェアです。

(左)「ベスト・ストリート」通り入り口
(右)「オープン・クローゼット」フェア

このフリーマーケットが開かれた施設内では、手作りのアクセサリーや冬物衣服、キャンドル等の置物、陶器から、レトロなビニールレコードやアンティークカメラなど色々な品物が並びます。訪問客も子供から大人まで幅広い年齢層で、じっくりと吟味しながら買い物をしていました。販売している方々の接し方も千差万別で、人懐っこくフレンドリーに話しかけてお勧めの商品を出してきてくれるところや、こちらから声をかけるまでじっと静観してとことん熟考させてくれる場合があります。新年(2024年)は辰年ということで龍をモチーフにした品物がたくさん置いてありました。他にもたくさんのオリジナル・ハンドメイドが並び、その芸術作品の数々を見るだけでも大満足のまさに目の正月をさせてもらいました。

(左)品物を心ゆくまで見させてくれます
(中)アクセサリー類は特に人気です
(右)2024年は辰年ということで竜を象った作品がたくさん置いてある(写真はキャンドル)売り場が多いです

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 次に向かったのは、中心地のネミガ駅を出てすぐのスポーツ宮殿前の広場です。ここでは主な祝日期間ごとに屋台と露店が立ち並ぶお祭りフェアが開催されます。これぞまさにミンスク伝統の光景といった様子で、その空間はより一層活気を帯びていました。

(左)スポーツ宮殿広場ではクリスマスツリー(写真左)とコンサート用ステージ(写真右)で新年を迎える準備バッチリ
(右)伝統的な湯沸し器サモワールを使って提供される温かい飲み物

マトリョーシカ等のお土産品、手編みの手袋・靴下を目にすると何だか心が和んできます。スラブ地方で昔から伝わるサモワール湯沸し器を使った温かい飲み物やシャシリク(バーベキュー風な肉の串焼き)を口にすると体が芯からぬくもり、冬の寒いなか屋外にいるのを忘れさせてくれます。こうして伝統的な気分に浸っていたかと思えば、ドライアイスの煙のようなものがもくもくと出続ける<魔法のカクテル>(アルコール/ノンアルコール)や天然ポテトチップスの串焼きのように新作の飲食物も流行っています。また出店の中には、子供用アトラクションもあり、金魚すくいのような(オモチャの魚釣り)ものから、風船割り的当てゲームまでいろいろです。

(左)シャシリク(肉の串焼き)のジューシーな香りは食欲をそそります
(中)ドライアイスの煙のようなものが出る新たな飲み物「魔法の飲み物」も温かいです
(右)天然ポテトチップス串焼きも好評です

ここの露店や屋台で働く一人ひとりの素直な笑顔と親切・丁寧なサービスは、周りをとても幸せな気持ちにさせてくれます。見渡す限り機嫌のいい顔でいっぱいです。きっと、みんなのお祝い気分が上がり自然とこのような楽しい雰囲気がつくられているのでしょう。広場中央にはクリスマスツリーがそびえ立ち、コンサート用の特設ステージ舞台が設置されており、新年のカウントダウン・イベント会場としても準備万端です。

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 豊かな芸術文化を育むミンスクでは、レベルの高いバレエ・音楽・演劇等のイベントを手軽に観ることができます。この冬に行ったのは、<映画俳優・スタジオ劇場>(1980年創立、ネミガ駅からバスで15分ほどの距離に位置)で公開された悲喜劇<ミュウンヒハウゼン物語>(ドイツの古典名作<ほら吹き男爵の冒険>から)です。

(左)映画俳優・スタジオ劇場
(右)上演された劇「ミュウンヒハウゼン物語」ポスター

入り口でチケット(25ルーブル=約1100円)を見せて、階段を下りた所にあるクロークルームにコートを預けて、メインホールに入ります。劇が始まると、このファンタジー大作の登場人物を演じる俳優・女優さん達が次々と登場し、その卓越した演技力で観客席を物語に引き込んでいきます。キレとメリハリのある動きによく通る声で、時にコミカルに、時に情緒的に演じる役者の方々から出るオーラに、高い芸術性と美学を体感しました。上演は二幕構成で、前半と後半の間に15分程度の休憩がありました。休憩時間には、建物内の建築様式、彫刻、劇場出身のアーティスト達の写真なども鑑賞することができ、カフェで紅茶やコーヒーによく合う甘いものを口にしながらホッと一息入れれます。

場内のカフェのメニューにもある色とりどりの美味しいスイーツ (提供写真)

夜7時から始まった劇がスタンディング・オベーションで終了したのは夜9時過ぎでした。訪問客はほぼ大人ばかりでしたが、中には小・中学生ぐらいの子供もいました(遅い時間帯なので大人の保護者同伴です)。芸術に興味、または学んでいる子達でしょうか。幼い頃から演劇・バレエ・絵画・音楽・造形美術といった伝統芸能に触れる機会、それらを専門的にしっかりと学べる教育機関があるミンスクでは、優れた芸術家を次々と輩出するシステムが確立されています。

(左)メインホール
(右)メインホール入り口前

 日本文化が幅広く人気なのはこれまでも触れてきましたが、2023年度末から現地映画館で封切りとなった宮崎駿監督の最新作<君たちはどう生きるか>(翻訳された題名は<少年と鳥>)が大きな話題を呼んでいます。この<少年と鳥>視聴は12歳以上が対象となっていますが、ちょうどそれぐらいの年齢の子供たちには特に大きな感動と気づきを与えています。話をきいてみると、「宮崎駿監督ならではの迫力あるアニメーションと壮大な風景画の美を楽しめると同時に、創造性・人間味あふれるストーリーの中に深い哲学がある!」と真剣な面持ちで答えが返ってきます。これまで、和の神秘がつまった<もののけ姫>や<千と千尋の神隠し>、華麗で洋風な<ハウルの動く城>の美しい描写と魅力あるキャラクター・面白いストーリーに夢中になってきた若い世代から、心の成長を感じさせるひと味違うコメントが出てきたのが印象的でした。ほかにも、実際に映画館を訪れた各友人・知人が「素晴らしかった!」という第一声とともに、この作品に深く感銘した気持ちを率直に熱く語るので、自分もこの話題作を見に行ってその真意を確かめたくなりました。

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ミンスクには様々な映画館があります。新しいものでは、(ネミガ駅よりバスで15分ほど行った)ショッピングモール<Palazzo>内に2022年オープンしたばかりの銀幕<mooon>というシアター広場が有名です。

ショッピングモール「Palazzo 」内にオープンした最新「mooon」シアター広場ラウンジ(提供写真)

近代的でオシャレな雰囲気の空間で、シアターホールは従来のクラシックな座席が並ぶものから、柔らかい背当たりのソファー席や寝転べるベッド席があるものまで様々な種類が用意されています。他の映画館に比べるとコストは高めですが、流行の最先端を感じられる名所となっています。

(左)スタンダードタイプな座席が並ぶ上映ホール「mooon IMAX」 (提供写真)
(中)ソファー座席が並ぶ上映ホール「mooon 」(提供写真)
(右)映画館内で販売されているオシャレな飲み物 スムージー (提供写真)

今回、<少年と鳥>を見にこの映画館を訪れた友達は、その最新設備で新感覚の視聴体験が楽しめたと言います。第5<mooon+>ホールのソファー座席 (二人掛けの席からの案内で32ルーブル=約1370円~)に腰をかけるというよりは、身をまかせてあお向けにもたれかかりスクリーンを眺めていると、やわらかいクッションに吸い込まれていく心地よさを感じながらリラックスした映画鑑賞ができます。何百席もある第1<IMAX>ホール(スタンダードなシングルシートが15ルーブル=約640円)でも、休日には上映中の各作品のチケットがほぼ完売になるなど大盛況です。

「君たちはどう生きるか」デジタル上映案内~上映時間=2時間9分でジャンルはアニメ・ドラマ・ファンタジーと表記(提供写真)

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 一方、私が訪れたのは半世紀以上の歴史を持つ中央映画館(街の中心を走る目抜き通り沿いに位置する1954年開業の老舗劇場)で、ここではスタジオジブリをはじめ日本のアニメ作品が定期的に繰り返し上映され続けています。元旦のこの日、上映スケジュール表に記載される<少年と鳥>は2D映画でチケット価格が10ルーブル(およそ430円)でした。入り口の大きな門のようなドアを開けて中に入ると、売店・カフェとラウンジ、その両脇には絵画が飾られており、奥にあるオルガン・ピアノの上のデジタルモニターで上映中の映画予告が流れています。

(左)宮崎駿監督最新作「君たちはどう生きるか」が上映された長い歴史を持つ中央映画館
(右)中央映画館の「君たちはどう生きるか」ポスター~「千と千尋の神隠し」、「となりのトトロ」、「もののけ姫」、「ハウルの動く城」の宮崎駿監督作で12月7日より上映と表記

年末年始のお祝いの時期ということもあり、クリスマスツリーやイルミネーションで色鮮やかに彩られたレトロモダンな雰囲気になっていました。階段を登っていくとシアターホールです。チケットにも番号なしの”ホール”とだけ書いてあるので、この映画館では唯一の試聴場所のようです。前の映画作品の終了を待って(上映開始15分ぐらい前に)入場となりました。横並びの座席が1~7段まであり、通路を挟んで入り口の両脇後方にVIP席(価格は普通の席の倍)があるシンプルな造りとなっています。落ち着いたクラシックな感じで、いざ上映が始まると作品の試聴に集中できます。

(左)中央映画館ラウンジ
(中)ラウンジ奥のデジタルモニターで「君たちはどう生きるか」映画予告中
(右)アターホール内のスクリーンと座席

冒頭からスクリーンの中に引き込まれるような大迫力の描写が続いたかと思えば、登場人物の心情や内面がリアルに表現され、いつの間にかストーリー展開を夢中になって追いかけていました。見ていた子供たちからクスクスと控えめな笑い声がきこえてくるホッと息抜きができる場面もありました。ハイライトシーンの時やラストが近づくにつれ、これまでの「天空の城ラピュタ」、「もののけ姫」、「ハウルの動く城」といったスケールの大きい作品が走馬灯のように頭を駆け巡り、宮崎駿監督だからこそ描けるアニメーション・ワールド・ドラマを思う存分堪能できました。コミカルなキャラクター表現や美味しそうに味わう食事の場面もそうですし、いろいろな(家族や友、少年・少女のピュアな)愛のかたちが美しく描かれていて、これまでの集大成のような作品に感じました。吹き替えの声は感情が込もっていて伝わりやすく、物語の終わり方が長々とせずスッキリしており、見に来られた方々もきっと満足して気分よく帰路に着いたのではないでしょうか。大好評の理由が、そしてオリジナル(日本語)の題名にある文字通り<君たちはどう生きるか>という切実な問いかけと真摯に向き合わせてくれる哲学作品であることが、実感として分かりました。  

 異国の地でまた一つ日本の良さを知る嬉しいニュースでした。一旦離れて外から母国を観てみると、このように故郷のことがより好きになっていく機会に多々あいます。人と人とのつながり・交流のなかで、柔軟な見方・考え方を教わる大切な時間の中にいることをあらためて認識できます。

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