Q.福島原発事故の深刻度は「レベル7」とされていますが、この値はどのように決まるのですか?
国際的原子力評価尺度は、下の表のようになっています。レベル7(深刻な事故)は放出した放射能の量によって決まり、比較のためにヨウ素131等価に換算することになっています。 福島第一原発では、事故発生から1日でレベル7の基準を超えていたことが明らかになりました。
表.原子力発電所の事故の国際評価尺度 (原子力市民年鑑2010より、レベル3以下及び深層防護の劣化を省略)
レベル | 所外への影響 | 所内への影響 | 事故例 |
7 深刻な事故 |
放射性物質の重大な外部放出 ヨウ素131等価で数万ベクレル相当の放射性物質の外部放出 |
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チェルノブイリ4号暴走 事故 |
6 大事故 |
放射性物質のかなりの外部放出 ヨウ素131等価で数千から数万ベクレル相当の放射性物質の外部放出 |
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キシュチム再処理施設高レベル廃液タンク爆発事故 |
5 所外へのリスクを 伴う事故 |
放射性物質の限定的な外部放出 ヨウ素131等価で数百から数千ベクレル相当の放射性物質の外部放出 |
原子炉の炉心の 重大な損傷 |
スリーマイル島2号炉心溶融事故 ウィンズケール炉放射能放出事故 |
4 所外への大きなリスクを伴わない事故 |
放射性物質の少量の外部放出 公衆の個人の十分の数ミリシーベルト程度の被曝 |
原子炉の炉心の かなりの損傷/従業員の致死量被曝 |
JCO臨界事故 サンローラン・デゾー2号燃料溶融事故 |
Q.周辺住民の避難について、チェルノブイリと福島とで違う点はありますか?
チェルノブイリの場合、原発労働者の町プリピャチでは翌日に45,000人が、原発から半径30キロの周辺町村は5月2日から1週間かけて約9万人の避難が行われました。5月1日のメーデー行事を通常通り行ってからの避難になったので、その間に無用な被曝をしたといえます。 福島の場合は、3月11日の16時54分に管直人首相は「外部への放射性物質などの影響は確認されていない」と発言しましたが、福島県は独自に半径2キロ圏内の避難を決めました。 その後、国は21時23分に3キロ圏内の住民の避難を指示し、10キロ圏内の住民は屋内避難となりました。 翌日の12日午前5時45分には10キロ圏内の住民に避難指示が出ました。その後15時36分に一号機建屋で水素爆発が起き、18時半に20キロ圏の住民に避難指示が出ました。 そして、13日8時41分には三号機の格納容器から放射性物質を含んだ水蒸気が放出されました。その後の10時30分には原発から約3キロの双葉町役場前で1000マイクロシーベルト/時の測定器が振り切れています。その直後、三号機で水素爆発が発生しています。 3月15日午前には20キロから30キロ圏内が屋内退避ということになりました。この屋内退避を解除して、汚染の高い飯館村などを計画的避難区域としたのは約1ケ月後の4月22日です。 チェルノブイリでは数百キロ離れた地域にも高濃度汚染地が点在しています。ベラルーシでは1989年に新たに11万人の住民を避難させています。避難の基準となる汚染のレベルは次の通りです。
・40キュリー/q2以上 → 強制避難ゾーン
・15〜40キュリー/q2以上 → 強制(義務的)移住ゾーン
・5〜15キュリー/q2以上 → 希望すれば移住が認められるゾーン
・1〜5キュリー/q2以上 → 放射線管理が必要なゾーン
※1キュリー/平方qは37キロベクレル/m2に相当します。また、避難住民の全身線量としては平均10ミリシーベルト程度とされています。
☆放射線と被曝の基本
体の細胞を構成している原子は、原子核の周りを電子がまわっています。外部から何らかの形でこの電子を弾き飛ばすことを電離作用といいます。電離作用をもつ粒子などを総称して電離放射線、または単に放射線と呼んでいます。また、放射線を出す能力そのものまたは放射線を出す物質のことを放射能と呼びます。 放射線にはいくつかの種類がありますが、原発事故で重要なのはα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線です。 アルファ腺はヘリウムの原子核で、プラスの電気を帯びて重さも重いので破壊力があります。ただし、あまり遠くへ飛ぶことはできず、空気中で数センチ、体内ではミクロン単位で測れる範囲しか影響を及ぼしません。 ベータ線は高速で飛ぶ電子の流れです。透過力はアルファ線と次のガンマ線の中間です。 ガンマ線は電磁波の一種で、透過力がありコンクリートの壁でもかなり突き抜けます。アルファ線、ベータ線を出すものは限られていますが、ガンマ線を出すものは多く、放射線測定器でもガンマ線だけを測定している場合が多いです。
Q.被曝をすると、どんなことが起きるのですか?
放射線被曝には、体の外から放射線を浴びる「外部被曝」と、呼吸や食べ物を通して体内に放射性物質を取り込む「内部被曝」とがあります。 放射線の強さは線源からの距離の2乗に反比例するため、外部被曝の場合は線源から離れることによって被曝線量が少なくなります。たとえば、地面に放射性物質がある場合、地表からの高さが高いほど低い値になります。逆に、内部被曝の場合は細胞のすぐそばに放射性物質があることになり、外部被曝とは比べものにならない大きな影響を与えます。 あるレベル以上の高い放射線を浴びて被曝すると、白内障や脱毛といった症状が現れ、最悪の場合は死に至ります。これらは「急性障害(=確率的影響)」と呼ばれます。 その他の急性障害の症状として知られているのは下痢、おう吐、倦怠感、鼻血などです。 一方、被曝してすぐに症状は出ず、数年後、数十年後に、がんや遺伝的障害が出てくるケースもあります。これらの症状は「晩発性障害(=非確率的影響)」と呼ばれます。 被曝線量が100ミリシーベルトより少ない場合に、健康への影響があるかどうかについて専門家でも意見が分かれていますが、これまでの歴史は影響があるとされる線量が下がってくる傾向にあるので、低線量なら問題ないと言い切ることはできません。 確率的影響という意味は、同じ線量を被曝しても、病気になる人もいれば、ならない人もいるということであり、100ミリシーベルトを被曝すれば必ずがんになるというわけではなくて、その集団のなかにはがんになる人もいるということです。 また被曝して数年後に症状が出るため、その原因が放射線によるものなのか否かの判断が難しいとされています。
Q.福島での事故の収束にむけ、多くの方が処理作業にあたっています。チェルノブイリでは、事故処理作業にどのくらいの人が従事したのでしょうか?
チェルノブイリ原発の事故処理作業者(リクビダートル)は、総数で60〜80万人といわれています。 その中で各国に登録されている人数は以下の通りです。 (京都大学原子炉実験所・今中哲二さんの研究報告書『チェルノブイリ原発事故の実相解明への多角的アプローチ』より)
| ウクライナ | ロシア | ベラルーシ |
基本調査集団 |
174,812人 |
143,032人 |
46,674人 |
線量記録あり |
59% |
80% |
26% |
平均線量記録 |
160mSv |
107mSv |
57mSv |
この表の合計は36万人で、線量の記録は22万人分しかありません。しかも、その記録の正確さには疑問があります。ロシアで登録されている作業員のうち、1986年の49000人についてのデータでは平均被曝量は160ミリグレイで、250ミリグレイにピークがあります。1986年の作業では被曝限度が250ミリグレイとされており、その値を超えたものは記録されていない可能性があります。
☆放射線の単位について
放射能 1ベクレル = 1秒に1個の放射性原子の変化が起こっているということ。 1キュリー = ラジウム1グラムの放射能 = 370億ベクレル
放射線
線量の種類 | 単位 | 旧単位 | 意味 |
吸収線量 |
グレイ |
1グレイ=100ラド |
体重1キログラム当たり 1ジュールのエネルギーを吸収した |
線量当量 |
シーベルト |
1シーベルト=100レム |
吸収線量を体が受けたダメージの程度 により重みをつけた値 ガンマ線 :吸収線量×1 ベータ線 :吸収線量×1 アルファ線:吸収線量×20 |
Q.彼らの健康状態はその後どうだったのでしょうか?
リクビダートルのその後の状況はよくわかりませんが、健康な人々が少なくなり、何らかの病気を抱えている人が増えているということは間違いないようです。 1996年でのリクビダートル代表の話では、ロシアのリクビダートルは2000年までに100%が死亡するか身体障害者になるとのことでした。この年の定期検診結果では1.健康:10%、2.要精密検査:24%、3.病気:66%とのことです。 2000年4月にロシア非常事態相シャイグーは「旧ソ連86万人のリクビダートルのうち55,000人以上が放射線障害などで過去14年間に死亡した」と発表しました。また、2005年4月にウクライナのチェルノブイリ被災者同盟は「過去19年間に事故の影響で150万のウクライナ人が死亡した」と発表しました。 日本では職業被曝の全身被曝量の上限は50ミリシーベルト/年、100ミリシーベルト/5年、緊急時の職業被曝の上限は100ミリシーベルトですが、今回の事故に限り、この緊急時の上限が250ミリシーベルトに引き上げられました。 これらの措置に対し、「事故処理にあたる作業員の安全が軽視されているのではないか」という批判も見られます。 またチェルノブイリでは高い放射線被曝をしていない周辺住民にも健康被害が出た例が多く、低線量だからといって、容易に安心することはできません。
Q.事故処理作業者を含め、チェルノブイリ原発事故の被害者数はどのくらいだったのですか?
国際原子力機関(IAEA)によるチェルノブイリ事故の死者数は、将来がんで亡くなる人を含めて4000人となっています。 その内訳は、運転員・消防士28人、急性障害による死者19人、小児甲状腺がん患者4000人のうち死者9人、事故処理作業者(リクビダートル)20万人のうち死者2200人、30km圏内住民11万6人のうち死者140人、高汚染地域住民27万人のうち死者1600人となっています。 これに対して世界保健機関(WHO)では9000人としています。その差は上記のIAEA報告による死者数4000人に、低濃度汚染地域住民680万人分のうち死者5000人を加えたものです。 将来まで含んだがん死者数の見積もりにはいろいろ幅があり、世界中で3万から20万人、最近では100万人という数字もあります。 被曝者の総数は、 ・原発職員・消防士:1000〜2000人、 ・事故処理作業者:60〜80万人、 ・30km圏内からの避難者:12万人、 ・高汚染地域住民・移住者:25〜30万人、 ・汚染地域(1キュリー/平方キロ)住民:約600万人 です。
Q.健康面以外に、どういった影響があったのでしょうか?
経済面でも大きな打撃を受けました。 1990年試算では、事故後14年間で直接、間接的に失われる国内の生産基盤と財政支出分を合わせると、2000億ルーブルになるとされました。これはソ連の国家予算の約4割にあたります。主に農産物の被害と供給電力の損失、事故処理費用で、医療費や経済活動の影響、個人の損害賠償などは含まれていません。 またチェルノブイリ事故当時の1986年は旧ソ連邦でしたが、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の独立運動から民主化運動が始まり、1991年、ついにはソ連邦の崩壊に至ります。ソ連崩壊の背景に、チェルノブイリ事故による影響を指摘する声もあります。
地震と原発 |
Q.福島第一原発事故は津波が原因で起きたのでしょうか?
送電線の鉄塔が倒壊し、非常用ディーゼル発電機が停止したために、全電源喪失となって事故が決定的になったのは間違いありませんが、最初の地震動によって配管などが破損し、事故が始まったことを指摘する専門家もいます。もし、そうであれば本来は耐えられるはずの地震によって被害を受けたことになり、全国の原発の安全性に直結する重大な問題となります。 地震から12時間後、1号機の圧力容器の圧力が8気圧まで低下しています。通常運転時は70気圧ですから、半日で1/10近くまで下がったということです。同時に格納容器内の圧力が上昇しているので、圧力容器からの配管、例えば再循環ポンプに接続される配管に亀裂が入り、そこから蒸気が漏れだしたとすれば納得ができます。これは、津波による全電源喪失とは関係なく、最初の地震動によって起きたと考えられます。
Q.地震の多い日本では原発も地震対策が必要だと思いますが、それはどのようにされているのでしょうか?
原子力発電所の耐震安全性は、1978年に策定されて81年に一部改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」によって保証されています。「指針」はこのあと2006年に大改訂されますが、現在運転中の原発は改定前の指針に基づいて設計されています。「指針」によれば、まず過去の地震と周辺の活断層の調査を行い、「将来起こりうる最強の地震による地震動」をS1、「およそ現実的でないと考えられる限界的な地震による地震動」をS2として、特に重要な施設ではS1に耐えることができ、S2に対しても安全機能が維持されることとなっています。 ここで、S1に対しては耐えられるように作るが、S2の地震では壊れなければよいということです。しかし、最近では次々とS2を超える地震に襲われる事態となっています。また、原子炉建屋とタービン建屋は別の基準で設計されているため、建物は影響を受けなくても配管などの設備が損傷する可能性があります。
Q.菅総理の要請によって浜岡原発が停止されましたが、浜岡には特別の事情があるのでしょうか?
福島第一原発では15メートルを超える津波によって全電源喪失になったということですが、浜岡では8メートルまでしか想定していないので、防波壁が完成するまで停止となりました。 浜岡原発の敷地があるのは、将来発生することが予想されている東海地震の震源になるとされているところです。もし、東海地震が起これば、浜岡原発はこれまでほかの原発で経験したことのない揺れに襲われるといわれています。そして、その被害は中京地区をはじめ関東全域にまで被害が及ぶものと思われます。 では、なぜこのような地震が予想される場所に原発が建設されているのか。浜岡原発1号機が運転開始したのは1976年、設置許可が下りたのは1970年です。設計されたのはそれより前ですが、当時はまだ地震の発生を理論的に説明するプレートテクトニクスはまだ主流の学説となっていませんでした。どこでどのような地震が起こるかわかっていなかったのです。 ところが、東海地震説が発表されても浜岡原発の増設は止まりませんでした。もし、浜岡原発1号機が東海地震に耐えられないということになれば、それまでの国の耐震設計指針が間違っていたということになり、それを認めることができないからです。 2009年8月11日の駿河湾地震はマグニチュード6.5で、予想される東海地震の700分の1のエネルギーしかありません。しかも震源地から離れているにもかかわらず10センチの地盤沈下を起こし、46件のトラブルが発生したのです。これでは、東海地震で事故を起こさないという保証はありません。
Q.全国のほかの原発にはそのような問題はないのでしょうか?
日本は、ユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの4つのプレートが接するという、世界でもまれな地震国です。このプレート境界は絶えず力が加わるため、周期的に強い地震が起きていることがわかっています。しかし、内陸部でもひずみが蓄積すれば地震を起こすわけで、いつ、どこで地震が起きてもおかしくないのが日本列島です。 浜岡原発の場合は、近く発生する東海地震の影響を受けることが想定されますが、そのほかの原発では近くで巨大地震が起きないということはできません。 福島第一原発では、最初の地震によって配管の破損が疑われています。この時の揺れは約500ガル、想定値を上回っていますが過去最大ではありません。全国の原発が同様の地震に襲われた時、安全性に疑問が残ります。
Q.玄海原発の運転再開が議論されましたが、玄海原発には問題があるのでしょうか?
今回運転再開する予定だった3号機は、日本で初めてプルサーマルを受け入れ、2009年11月から運転していました。プルサーマルは通常の原発に比べて安全の余裕度が少なくなることが知られており、その点をどの程度考慮されているかわかりません。 また、1号機、2号機はこれまでたびたび蒸気発生器細管に損傷が見つかっており、2号機では燃料集合体からの放射能漏れも起こっています。1991年2月、関西電力美浜2号炉で蒸気発生器細管破断事故が起こり、230億ベクレルを超える放射能を放出しました。幸いにもそれ以上の重大な事態には至りませんでしたが、玄海原発でも同様の構造の原発であり、同じような事故が起こらないとも限りません。 現在運転中の玄海原発1号機では、2009年の定期検査で取り出した試験片の脆性遷移温度が98度に達していたことがわかりました。これは、原子炉圧力容器が長期間の中性子照射によって脆くなり、ガラスのコップに熱湯を注いだ時と同じような割れ方をする可能性があるということです。原子炉を緊急停止する必要が発生した時、緊急炉心冷却装置から大量の冷水が注がれることになりますが、そのために圧力容器が破壊されると、人類が経験したことのない規模の原発事故となる可能性があります。 今回の震災を受けて、九州電力は移動電源車を配置したことなどで運転再開しようとしましたが、根本的な津波対策が完了するのは数年後になるようです。また、地震に対しては、全国の原発の平均より低い540ガルの耐震性しかありません。 これまで1000年に一度しか地震が発生しないと思われていた北部九州で、福岡県西方沖地震が起きたのは、玄海原発からわずか40キロのところです。中国・四川大地震のように、これまで数万年にわたって地震が起きたことがないところでも巨大地震が起きています。玄海原発だけが巨大地震に遭遇しないということはできません。
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発電のしくみ |
Q.福島で原発事故が起き、あらためて放射能の怖さを感じました。私たちの暮らしの中に当たり前にある電気ですが、そもそも電気はどうやって作られるのでしょうか?
電気を作る仕組みは火力発電でも、原発でも基本的に同じです。蒸気を作って、その蒸気でタービンを回して発電しています。 原発では、ウラン原子が核分裂する際に出る熱で、蒸気を作りタービンを回しています。 蒸気で直接タービンを回す「沸騰水型」と、原子炉内を循環する水とタービンを回す水を蒸気発生器で分離する「加圧水型」などがあります。
Q.日本には50基以上の原発があります。日本の電力の多くは原発によってまかなわれているのですか?
2009年の発電電力量の実績(推定)は9,528億キロワット時で、その構成比率は、石炭24.7%、原子力29.2%、LNG29.4%、石油7.6%、一般水力7.3%、揚水0.7%、新エネルギー1.1%となっています。発電設備容量では、原子力は20.2%、石油火力は19.1%ですから、石油火力をなるべく運転せずにいることがわかります。
Q.電気を作る仕組みは火力発電でも原発でも基本的に同じということですが、作れる電気の量は同じですか?
いいえ。火力発電でも原発でも、その発電効率はタービンの入口と出口の温度差によって決まります。高温の蒸気を使い、タービンから出てくる温度が低いほど効率が高くなります。熱源があって、それを仕事に変える装置のことを熱機関といいますが、タービンは蒸気の熱を回転エネルギーに変えて、さらに電気に変えるために、熱機関の計算方法で効率を計算できます。熱力学の教科書によれば、高温熱源をT1、低温熱溜をT2とすれば、熱機関の効率は次の式で表せます。 カルノーの熱機関の効率:η(イータ) η=(T1―T2)/T1 T1、T2は絶対温度 原子炉からの蒸気の温度を300度、タービンを出た時の蒸気の温度を130度とすると、 ((300+273)-(130+273))/(300+273) = 170/573=0.297 ≒ 30% 原発は効率が30%で、残りの70%は廃熱となってまわりの海水温を上げることになります。火力発電の熱効率は原発より少し良く30〜40%近くのものもあるようです。 また火力発電所の中には「コンバインドサイクル発電」というものもあります。 この「コンバインドサイクル発電」の仕組みはジェットエンジンと同じです。まず天然ガスを燃焼させるガスタービンで、次にガスタービンから出る排気ガスで高圧蒸気を作り、高圧蒸気タービンを回します。さらに、その排気された蒸気を、低圧蒸気タービンを回すために使います。こうすることで熱を何回も有効利用するので効率は49%〜61%にまで上げられます。 火力発電といえば石油や石炭を想像しますが、最近では天然ガス(LNG)が増えています。コンバインドサイクル発電は効率が高いだけでなく、需要に合わせて出力の変動が簡単にでき、放射能の心配もないので都市部のすぐ近くに建設して送電ロスを抑えることも可能です。
Q.わたしたちが使う電気の量は季節や時間帯によって異なると思いますが、発電量はその使用量に応じて調整できるのですか?
一日の消費電力は、朝からだんだん上昇していって、午後にピークを迎え、夕方に少し上昇した後は深夜に最低になります。この最低限の値をベースロードといい、原発がこのベースロード部分を受け持っています。電気は貯めることができないので、消費に合わせて発電量を調整する必要があります。 しかし発電の方法によっては、発電量を調整できないものがあります。そのひとつが原発です。原発は常に最大出力で運転する必要があります。 また太陽光・風力は自然任せで変動するため、火力と水力とで消費量に合わせる必要があります。
Q.発電量を調整できない原発で作られた電気が、余ることはないのでしょうか?
もちろん深夜の最低電力(ベースロード)が原発の出力を下回ると、電気が余ることになります。 逆にこのベースロードが上がれば、その分原発を動かせることになります。そこで電力会社としては夜中に電気を使ってほしいので、夜間の電気料金を値下げした夜間電力消費キャンペーンを展開しています。 また原発が建設されると、その規模に見合うだけの揚水発電所が建設されています。この揚水発電所では、高低差のある2つのダムを作り、昼は上のダムから下のダムに水を落として発電し、夜は下のダムから上のダムに水を汲み上げる発電所です。昼間に電力を供給して需要を賄うということもありますが、夜間に余った電力を消費するという意味合いが強いです。つまり原発がなければ必要ない発電方法です。
Q.原発は二酸化炭素(CO2)を排出しないので、地球温暖化に効果的という意見もありますよね?
たしかに原発では発電時にはCO2 を排出していません。しかし原料となるウランの採鉱から使用済み核燃料の処理まで含めると、多くのCO2を排出しています。 また原発の周辺海域に大量の温排水を流していることは、明らかに地域の気象条件に影響を与えています。 CO2による温暖化については、その科学的根拠に批判的な学者もいて、原発を推進するための道具にされているとの意見もあります。CO2は化合物ですから、必ず化学的な方法で処理することができます。しかし、放射能を化学的な方法でなくすことはできません。
Q.太陽光や風力など、再生可能なエネルギーへの関心も高まっていると思います。これらの自然エネルギーの現状はどうですか?
再生可能エネルギーには風力、太陽光、太陽熱、波力、潮力、小規模水力、バイオマスなどがあります。しかしいずれも現状の需要を賄うだけの設備はまだなく、すぐには増えそうもありません。 風力、太陽光は気象条件によって発電量が大きく変化し、発電に適した場所も限られています。現在の電力需要を賄う発電方式ではありません。 太陽光発電は少し雲が出ただけで発電量が低下し、夜間は発電できないので稼働率が低く、他の発電方式との組み合わせが必要です。また、風力発電では騒音公害、健康被害の問題があります。 現在の送電システムは原発などの大規模発電所から需要地への一方的な送電を前提としています。これらの再生可能エネルギーによる発電を増やすには、双方向の送電が可能なシステムに改める必要があります。そのためにも発送電の分離が重要です。
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今後に向けて ―わたしたちにできること― |
Q.ずばり、人間と原子力の共存は可能なのでしょうか?
今回、福島第一原発で事故が起き、問題点が色々見えてきたと思います。しかし事故が起きなくても原発のなかには大量の放射能が生み出され、溜まっていきます。それを処分するのは電気を使った世代ではなく、その子や孫、ずっと先の世代です。一時期の快適さのために、未来にこのような負の遺産を預けて良いのか、考えるべき時期にあるのではないでしょうかいいのでしょうか。
Q.原発を止めると電気が足りなくなるのでは?と心配する人もいます。実際、原発がなくなると、どんな生活になるのでしょうか?
基本的には何も変わりません。現在でも電力会社の持っている火力発電設備をフル稼働すれば停電することもありません。また、大規模工場などの自家発電設備を合計すれば、現在運転中の原発を超える発電量があるので、十分に需要を賄えます。 現在のところ、原発の代わりとなるのは火力発電です。先に触れた最新鋭のコンバインドサイクル方式での火力発電では、エネルギー効率が60%にもなるので、今後の発電方式の中心になると思われます。すでに、東京電力では東京湾に何か所も発電所を持っており、東北電力に融通する余力があります。 需要のピークは夏の昼間の数時間です。工場の夏休みの時期をずらす、昼休みをピーク時の2時間にずらす、クーラーの設定温度を下げる等が効果的です。また何でも電気に頼る生活を改めることも重要です。
Q.現在、メディアでは風評被害も含めて、さまざまな情報が流れています。今後正しく情報リテラシーを高めるためには、どういうことに気を付けながら、原子力問題についての情報をキャッチしていけばいいのでしょうか?
原発や放射能については難しいことが多く、一般には分かりにくいこともあります。ただ、これらを簡単な表現にすると正確さが失われる面もあります。また具体的な数字が省略してあると、それが正しいか判断しづらいこともあります。 風評被害やデマの多くは、知らないことによる恐怖から来ます。被害を実際以上に軽視せず、過剰に不安をあおらないためには、ひとつの情報を鵜呑みにせず、複数の情報を集め、客観的に整理、判断することが必要です。
Q.わたしたちにできることはなんでしょう?
一人一人の節電も大切ですが、産業界の電力消費の大きさを考えると、節電効果には限界があります。産業構造を変えるような政策転換が必要です。 より広い視野に立ち、政治的な主張を超えて、幅広い市民層からの取り組みが原発を減らすことにつながります。 私たちの未来を切り拓くのは、私たち自身です。勉強会に参加して原発についてもっと知る、周りの人と話してみる、問題を伝える、党派を問わず、自分の住んでいる選挙区の議員に原発の実情を訴え、手紙を書くなど、さまざまな切り口から原発を考え、未来に向けて取り組んでいくことが大切です。
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