2023年12月

 こんにちは!本格的な冬の到来を感じさせるミンスクからのレポートです。今年の秋(9月~11月)は実に色々なお天気模様でした。9月から10月にかけては暖かで気持ちのいい快晴の日が続き、その後は気温がぐんと下がり雨降りが多くなります。11月中旬を過ぎると辺り一面は早くも雪景色に変わり、マイナス10度近くになることもめずらしくありません。湿度が高く体感温度はかなり低めです。靴下を二重三重にしたり、ズボンや服をたくさん重ね着してみましたが、肩がこるばかりであまり効果がありません。周りからよく言われるのが、”キャベツ”のように何枚も羽織るよりも、ちゃんとした真冬用のコートを一着持ったほうがいいということです。また、熱いお茶やスープを飲むか、運動をしっかりするなどして体を芯から温めることを勧められます。この先、どれほどの氷点下になるのか想像がつきませんが、意識的に実践して防寒対策をしていきたいと思います。

(左)10月末の爽やかな小春日和(ミンスクからマイクロバスで3時間ほど行ったジローヴィッチという町)
(右)11月末の凍てつく白銀世界(ミンスク市内)

 近年、暖冬が続いていたミンスクですが、昨年のこの時期から積雪あり吹雪ありの白銀世界が再来しました。どんどん寒くなっていくなか故郷の日本が無性に恋しくなることもありますが、その和の文化を身近に感じさせてくれる嬉しい出会いが多々ありました。今回は、日本文化をこよなく愛する現地の人々の活躍と声をお届けします。

①柔道を学ぶデニス君:

 最近、柔道教室に通いながら日本語を始めたばかりというデニス君(9歳)は、将来訪日するという夢が膨らむばかりです。

柔道を学ぶデニス君

「柔道を始めたのは去年の冬からだよ。友達に誘われたのがきっかけだったけど、夢中でとりくみ今じゃ(グループで)一番強くなったんだ。それ以外にもヴァイオリンを学んでいるし、日本語も習い始めたんだ。大人になったら、ぜひ日本へ行って美しい自然に触れてみたい。色鮮やかな木々、そして何よりもきれいな桜の花をこの目で見たい。他にも日本の色々な面を知りたいなぁ。近代テクノロジーや食文化とか。今、僕は小学3年生で将来なにになるかはまだ決めていないけど、日本へ行けるようがんばるよ。学校は毎(平)日8時から13時までの間に5~6コマ授業(各45分)があり、色々な科目を勉強してる。放課後は友達と遊んでから家に帰るのが日課だよ。遊ぶといっても、おしゃべりしながら散歩するぐらいだけどね。帰宅すると宿題と妹のビクトリア(7歳)が待っている。たとえば、昨日は一緒に”チュービング”(浮き輪型のソリ)で遊んだんだ。普通の(板やプラスチック製の)ソリより速度が出るし、それで雪の斜面を滑ると爽快感がすごいんだ!」

(左)デニス君と妹のビクトリアちゃん
(右)雪が降りしきる外に出る時は寒さ対策ばっちりの服装をするデニス君(中央)と妹のビクトリアちゃんと日本語教室クラスメートのマルク君

 スポーツに音楽、語学と様々なことにチャレンジして、それぞれの部門で仲良くなった人達、そして家族との絆を大切にするデニス君は、とても愛情に満ちたいい表情をしています。彼に好感を持つ友人が多いのが分かります。

②国立美術館に展示される和服:

 国内最大級の美術館(1939年開館)には132ヶ国から33000点の歴史的な展示品が飾られています。その中には日本伝統の着物も飾られており、訪問者の目を引きます。こういった和の民族衣裳の繊細さは、世界中で高く評価されているようです。確かに日本を離れ改めてそれらを目の当たりにすると、その美しさにより魅了され、自国の文化をいっそう誇れる気分になります。入館料は大人が14(現地)ルーブル(約600円)、大学生までが7ルーブル(約300円)です。バレエやオペラの公演チケットも15~200ルーブル(約650~9000円)とリーズナブルな価格となっており、芸術への扉が幅広く開かれています。

(左)国立美術館の和服展示品(提供写真)
(右)国立美術館の和服展示品(提供写真)

 乗り物代は近距離(街なか)が一回に0.9ルーブル(約40円、高校生までは無料)、遠距離(たとえばミンスク発ブレスト行きの列車で距離が約350㎞、時間が約5時間半のところ)がおよそ60ルーブル(約2700円)となっており、国内の様々な州・町に住む親戚や友人に手頃な値段で会いに行けるようになっています。会いたい時に会いたい人のところへ、思い立ったときに訪れたい場所へ、気軽に行きやすくなっています。

③ハチ公生誕100年記念祭:

 実話をもとに映画制作された忠犬<ハチ公物語>で有名な日本の天然記念物”秋田犬”は、こちらでも高い人気を誇り愛されています。今年の11月は、そのハチが生まれてからちょうど100年になります。2023年の日本では、ハチが生まれた秋田県大館市や亡き主人を待ち続けた東京渋谷駅前を中心にこの生誕100周年イベントが開催されてきました。

 ミンスクでもこれを記念した催しが行われました。現地における秋田犬普及に携わってきた第一人者タチアナさん(通信No.125コラム参照)司会のもと、たくさんの愛(秋田)犬家が集まりました。純粋の秋田犬も三匹(赤毛の牡と牝、虎毛の牝)駆けつけ、訪問者(特に子供たち)と嬉しそうにじゃれあっていました。タチアナさんは、ハチの生涯を詳しく振り返るとともに、その物語を通してこの犬種ならではの献身的な性格・魅力を紹介してくれました。秋田犬のことをしっかり勉強されていて、何よりも切実に愛していることが伝わってくる内容でした。ゲストとして来ていた秋田犬を連れ、展覧会(コンクール)参加時のリードの仕方など専門的な実演も披露して観衆を沸かせていました。

ハチ公生誕100年記念祭(提供写真)

 会場となった一室には入りきれないばかりの人で溢れ、肌寒かった室内が蒸し暑く感じるほどになりました。来場者がそれぞれ交代で出入りを繰り返し、訪れた人全員がレクチャーを見れるよう譲り合ってる様子が印象的でした。幸い、日が差してきて気温も上がり、後半は場所を外に移して秋田犬との触れ合いが続きました。ハチ公と秋田犬のファンがここまで多いのかと驚きましたが、気持ちいい秋空の下すばらしい一大イベントとなりました。秋田犬が持つ不思議な力がつくりだした美しい光景がそこにありました。

④書道教室:

  筆に黒い墨を浸して白紙に文字を綴る”書写”は、こちらの人々を子供時代から魅了する特別な芸術のようです。普段はこの手法で古代スラヴ語を書いている専門の先生方が、<日本書道教室>を不定期で開催しています。

 集まる参加者の中には子供が多く、日本の学校で習う書写のプロセス(水を硯で磨き墨をつくり、それを浸した筆で下敷きの上に文鎮で固定した用紙に文字を書く)に興味津々です。慣れない日本の平仮名や片仮名、漢字を、これまた慣れない縦書きで夢中になって次々と綴っていきます。印象的だったのは、”書く”と言わず、”描く”と表現しながら書写をしていたことです。絵やアニメーションが趣味の子が多かったからでしょうか。日本人の私を見つけると、次々とアニメ・漫画のキャラクター名を日本語で描きたいので教えてほしいと頼んできます。彼らの日本のサブカルチャー知識は実に豊富で、インターネットで検索して調べないとついていけないほどです。

書道教室(左:提供写真)

 和気あいあいとした雰囲気のなか、自分の描いた作品を手に満足そうに帰っていく参加者達を見送っていると、嬉しさで胸がいっぱいになり、また習字を学びたい気持ちになってきます。こういった交流の場は、現地の人々に和の文化への興味を持ってもらうと同時に、自分自身も母国の様々な魅力に気づかせてくれる貴重な機会でもあります。

⑤墨絵を教えるリマ先生:

 ミンスクで墨絵を専門に教えるリマ先生が、月一で開いてる特別教室に体験入学させてもらいました。平日の午後7時からで、参加者は大人のみです。やはり、水彩画や書道といった和の伝統芸術愛好家が多く、毎月開かれるこのクラスを楽しみに通っています。毎回テーマが決まっており、今回は<紅葉>がモチーフでした。リマ先生が手本を見せながら一人ひとり丁寧に指導していくなか、各自上手に墨と絵具を水に混ぜて描き作品を仕上げていきます。表情は真剣そのものです。

墨絵教室

 特別教室の進行中、リマ先生に墨絵との出会い・日本への憧れについて語っていただきました。

「私は普段、出版社でデザイナー画家(本・児童書の表紙や挿絵のイラストを担当)として働いていますが、日本画・墨絵も定期的にいろいろな場所で教えています。昔、芸術アカデミーで学んでいた時、同級生のなかに日本で絵画の勉強をしたことのある学生がいました。私も含め仲のよかった同級生達は、彼から日本画について学びました。もともと子供の頃から和文化に惹かれて様々な日本の絵や書物をコレクションしてきましたが、これがきっかけで墨絵専門家への道が切り開かれました。いつか必ず憧れの日本へ行ってみたいです。特に奈良へ。そこでは通りをたくさんの鹿が平然と歩いているときいたので、ぜひ自分の目で確かめてみたいです。それから、日本古来の原風景が残っている静かな場所を訪れたいです。」

(左)リマ先生に指導を受ける
(右)墨絵教室に通う皆さんと

 お互いの国の間にある共通した原発事故の歴史についてもコメントをいただきました。

「チェルノブイリで起きた時のことはよく覚えています。当時、私はミンスク在住の学生でしたが、その影響で参加予定だった課外授業が中止となり、先生からは家に帰って窓を閉め外に出ないよう言われました。とても暑い日で、事故後には多くの人が住んでいた汚染地域から遠くへ移住するのを余儀なくされました。私たち家族や親戚は、チェルノブイリから比較的離れたミンスク州に住んでいたので、幸いなことに放射能による健康被害を受けた者はいませんでした。ゴメリ州のブラーギン等の地域は汚染がひどかったようです。日本の福島でも同様の事故が起こり放射能が拡散してしまいましたが、食料の問題も気になります。汚染地域での栽培は今後どうなるのかなど。故郷の復興・自身の健康回復に向けて頑張っている人達には、どのような状況でも明るく前向きでいることを忘れないでほしいと思います。人間の健康状態というのは心身ともに密接・影響し合うで、病気のもとが入ってこれないぐらいのポジティブ思考で!」

(左)それぞれの作品を手に
(右)中央はリマ先生

 自分の愛する芸術分野(墨絵)を専門に仕事をし、その美を多くの人と分かち合い、夢(訪日)を追い続けるリマ先生の言葉は直に胸に響きます。この墨絵教室で教えてもらったなかで特に印象に残っているのが、絵は作者の精神状態を表すということです。そんな彼女の描く一つひとつの絶妙なタッチには真っ直ぐな心と迷いのなさが表れています。芸術家の真髄を魅せてもらった気分です。

 午後9時、受講者は完成した作品をお互いに見せ褒め合いながら安堵の表情に変わります。それぞれ、気持ちが込もっていて本当に美しい墨絵作品だと思います。その日に習ったことがすぐに結果(成果)につながり、自身の作品が手元に記念として残ります。かなり寒い冬の訪れとなっており、暖房器具全開にもかかわらず室内は冷えていましたが、”一期一会”の暖かい思い出の絵が完成しました。

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