ベラルーシ、ブレストでの第6回検診に寄せて (チェルノブイリ通信号外より転載・一部修正)
文/清水 一雄(日本医科大学外科学講座主任教授・内分泌外科部長)
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清水医師。 99年、00年、04年、05年に引き続き、ベラルーシでの検診は今回で5回目の参加。 現地の医師の技術向上に取り組むとともに、日本国内においても医学生に チェルノブイリの現状を伝え、学生が検診の現場に参加する機会を作っている。 |
私は1999年からこの有意義な検診に参加させていただいているが、2001年からは、私どもの日本医科大学から、私以外の医師(江本直也医師、高津圭介医師)および細胞検査士(渡會泰彦さん、村瀬幸宏さん)が参加するようになり、3年前からは毎年、医学部学生(高橋恵理佳さん、賀来佳男君、中村壮香さん)が独自の意思で参加、同行している。学生のこの意欲、積極性に呼応して日本医科大学では時間的、経済的に様々なバックアップを始めるという本学学生の行なう課外活動の一環として理想的な形を取りつつある。本年も学生から参加希望があったが残念ながら申し出るのが遅く、手続きが間に合わないという結果になってしまった。
しかし、学生時代に2度もこの検診に参加し、このたび医師となった研修医の高橋恵理佳先生がまた、参加してくれる。今度は、学生としての支援活動でなく、医師として医療支援活動を行なうわけである。私としては、大変頼もしい後輩が出来たと思っている。
さて、今回の検診は、今までと違ってモスクワ経由という私にとって検診では初の体験である。モスクワには何回か行ったことがあるが乗り継ぎには不安がないわけではない。キエフでの学会に行くときの乗り継ぎでは足止めにあい、不快な思いをしたし、昨今のテロなどに代表される検閲での厳しさなど医療活動物資、支援物資を抱えての移動に問題がなければよいがと願っている。
しかし一方で、アルツールの細胞診技術の上達に伴い彼自身が現地医師6人を指導し一人前にしていると聞き大変感銘を受けたと同時に今回の強行日程も彼らとともに乗り切れると思っている。
今、現地で腫瘍に穿刺するのは現地医師が行わねばならないことになっているようで私が行なうことはない。私は穿刺の必要な病変部を指示することが主な役目であるので以前と比べ随分楽になった。この中でやはりいつも大きな負担を背負うのは細胞検査士の渡會さん、村瀬さんである。多数の標本を染色、顕鏡し、その上診断を下し、結果を現地へおいてくるのは限られた時間の中で大変な業務である。この作業は我々がなかなか手伝えるものではなく細胞検査士の苦労が伺える。可能であればこの部分の増員が望ましい。
事故後20年を越えたこの年、将来の更に実り多い検診に向け、新たな気持ちで臨んでいる。その中で、私の夢のひとつとして、私が考案し、今、国内外で最も多い350例という多数の症例数になった甲状腺内視鏡手術を、現地へ広めることである。女性に多い疾患で、常に露出された前頚部に手術創の入る甲状腺手術は美容上問題点を残し患者さんの術後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に少なからず影響を与える。頚部に手術創のない美容上の利点を持つこの手術を教育、指導するために様々なルートを辿って実現したいと思っている。
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