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チェルノブイリ通信 No.68(3)
2007年1月29日発行
NPO法人化と団体名称変更にあたってのごあいさつ
講演会報告 私たちにできること
 〜チェルノブイリと水俣から学ぶ未来づくり〜

・第6回ブレスト検診 報告

ベラルーシ・ブレスト州の甲状腺検診
事務局長を退任した吉本さんからのメッセージ
チャリティヘアサロン・スネガビーク2006 報告
ブレストでの第6回検診に寄せて
医師になった高橋恵理佳さんからのメッセージ
新事務局スタッフ紹介!
工房のぞみ21を訪ねて
2006年 第6回ブレスト検診 報告
現地医師により検診体制の完成に向けて

 報告/渡會 泰彦(臨床検査技師 日本医科大学付属病院病理部)

ブレスト検診
ベラルーシでの検診に臨む渡會さん

■はじめに
 私たちは2006年10月30日〜11月7日の9日間の日程で、ブレストにおける第6回甲状腺癌検診に参加しました。
 2006年4月にはチェルノブイリ事故から20年の節目を迎え、マスコミでも盛んに報道されました。
 日本医科大学からの医療スタッフとしては、内分泌外科教授の清水一雄先生、研修医で学生の頃から参加している高橋恵理佳先生、そして私が細胞検査士(臨床検査技師)として参加しました。
 私は今回で3回目の参加ですが、前回までのフランクフルト経由からモスクワ経由と変更になり、雪国の山形県鶴岡市生まれである私も震えるマイナス6度〜12度の厳しい初冬のベラルーシも経験しました。
 また、今回は新たな検診の拠点である“ラゴイスク地区”での検診のデモンストレーションを予定していましたが、現地の都合がつかず病院の視察に終わり、実際の検診は次回への持ち越しとなりました。

■ブレスト検診
 実質的な検診期間は11月1日午後〜11月3日までの約二日半で、今回も事前にアルツールらの移動検診により結節性病変のある住民の方を選んでいただき、受診していただきました。検診人数はトータル50名(男性4名・女性46名)でした。

■検診結果
 @検体不適正:0名(0%)A良性: 35名(70%) B鑑別困難:8名(2%)
 C悪性の疑い:3名(6%)D悪性:4名(8%)
 “悪性の疑い”および“悪性”判定は全て乳頭癌の疑いで、“鑑別困難”には濾胞(ろほう)腺腫あるいは濾胞癌が含まれる可能性があります。
 そして、今回の検診で発見された乳頭癌の疑いのある20歳の女性1名が今年2月にアルツール医師らと共に来日し、日本医科大学付属病院にて清水教授執刀による首に傷が残らない内視鏡手術を受ける予定になっています。

ブレスト検診
検診を終えて記念撮影。
左から高橋医師、清水医師、渡會検査技師、ウラジミール医師

■まとめ
 今回は、穿刺〜細胞の処理はエレーナ医師とウラジミール医師のペアが担当し、ギムザ染色はアリーナ医師にお任せすることができました。
 その結果、我々はエコー診断および細胞診断に集中することができ、二日半という短期間に50名もの仮診断を出すことができました。
 これは、現地医師の穿刺技術と意欲の向上により成し得たことであり、現地医師による検診体勢が完成しつつあると考えます。
 私が初めて参加した2003年の検診では単なる見学者であった現地医師が、見事に細胞診を含めた検診を主導できる医師へと成長を遂げていたことに驚きました。
 このことは、支援運動による長年の継続した活動の大きな成果と言えるでしょう。

■今後の活動および問題点など
 現地医師の穿刺吸引し細胞を採取する技術は、今回の検体不適正(診断に十分な細胞が採れない)が0名という結果から解るように(通常は1割〜2割は不適正になる)確実に目的の細胞を採取できるようになっており、既に日本の医師を超えるレベルに達しており、エレーナ医師のような第二世代医師への技術の継承も実現しています。
 甲状腺はその臓器の特殊性から他臓器で行われるような組織生検が行われず、「穿刺吸引細胞診」が最終診断である「組織診」の役割を担っています。
 今後は、細胞診を診断できる医師の育成が必要になると思われますが、診断できようになるためには、相当な時間をかけて細胞の見方を習得する必要があります。
 現在は日本で細胞診を研修したアリーナ医師が一人で細胞診を診断しているため、処理できる細胞診の数は限られたものになっており、診断部門での第二世代の医師もしくは、世界的に資格者が増えつつある細胞検査士の育成が急務であろうと考えます。
 そのためには、@日本での研修(医療通訳が必須)A現地の症例に学ぶ(細胞診と組織の照合により細胞診の見方を学ぶ)Bテレサイトロジーの実現(日本とベラルーシをインターネットでつなぎ、遠隔診断およびコンサルトレーションを可能とする)などの方法が考えられます。
 それぞれに、費用面と必要な機材・人材などに長所・短所があり、より現地が望む支援のためには今後も検討を重ねながらの継続した支援が必要であると考えます。

 以下に現在の問題点を挙げてみました。
*現地での診断はあくまでも仮診断(暫定診断)である
 2004年より、プレパラートの持ち出し禁止となったため、持ち帰って診断することができず、やむなく現地で診断を下すこととなりました。
 日本では細胞診断は私のような細胞検査士が仮診断し、その後細胞診専門医が最終診断を下すことになっていますが、費用面やスケジュール調整などの理由から細胞診専門医が同行することが困難であることから、現在は仮診断で終わっています。
 日本と同レベルの診断をするには細胞診専門医の同行が望まれます。

*パパニコロウ染色の普及
 現地では主にギムザ染色という染色法により診断を行っていますが、甲状腺癌のほとんどを占める乳頭癌という種類の癌を診断するためにはパパニコロウ染色という染色法がどうしても必要になります。
 ところが、パパニコロウ染色の必要性は十分理解していても、試薬がギムザ染色に比べ25倍も高いという経済的な理由から、パパニコロウ染色が普及していません。

■最後に
 新年の報道では、ロシアからのベラルーシへの天然ガス供給価格が約2倍の100$でロシアと合意し、ベラルーシ経済に大打撃を与えるとの報道がありました。原発事故に苦しみ、今もエネルギー問題で苦しむベラルーシの人々の苦悩は消えることがないのでしょうか?
 私たちが目にした“美しい国ベラルーシ”には、日本では考えられないような色々な問題が山積しているようです。
 今後はラゴイスクなど新たな地での検診活動などでブレスト同様の検診をできる体制のベラルーシ国内への拡大が必要と考えますが、そのためには今まで以上に資金・人材の投入が必要ですので、NPO法人化しパワーアップした支援運動の活躍が期待されます。
 もちろん私たちも一緒に取り組み、微力ながらお手伝いさせていただこうと考えております。


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