チェルノブイリ医療支援ネットワーク トップページチェルノブイリ医療支援ネットワーク トップページ
 > トップ通信No.68 (4)
チェルノブイリ通信 No.68(4)
2007年1月29日発行
NPO法人化と団体名称変更にあたってのごあいさつ
講演会報告 私たちにできること
 〜チェルノブイリと水俣から学ぶ未来づくり〜

第6回ブレスト検診 報告
・ベラルーシ・ブレスト州の甲状腺検診

事務局長を退任した吉本さんからのメッセージ
チャリティヘアサロン・スネガビーク2006 報告
ブレストでの第6回検診に寄せて
医師になった高橋恵理佳さんからのメッセージ
新事務局スタッフ紹介!
工房のぞみ21を訪ねて
チェルノブイリ原発事故
ベラルーシ、ブレスト州の甲状腺検診

 報告/武市 宣雄(医師 広島甲状腺クリニック)

ストーリン検診
甲状腺ガンの検診を行う武市医師

 チェルノブイリ支援運動・九州の皆様と一緒に、ベラルーシでの甲状腺検診の取り組みを始めたのは、1997年の事でした。今回(2006年)の検診で10年が経過しました。あっという間の10年でしたが、驚く程の成果が上がったと思います。
 広島の原爆被爆者に行っている「甲状腺癌早期診断・検診システムをチェルノブイリへ」が最初の合言葉でした。まず検診車を日本から送り込み、これに検診に必要な医薬品(エコー診断装置を中心とし、穿刺吸引、細胞の染色に必要な資材や顕微鏡)や、日本からの検診団を乗せて行く、というものでした。甲状腺癌診断に最も大切なものは、エコーガイド下に甲状腺から細胞を安全に確実に注射針の中に吸引することです。
 しかも1回に20〜40人の人からですので、それに最適なもので、しかも携帯に(検診車に乗せる)便利なものでないといけません。我々は一貫してそのベストのものを使っており、現地の先生方もこれを使いこなして下さるようになりました。これも皆様の支援のおかげと感謝しています。
 ベラルーシではミンスク(首都)の先生方と、地方・ブレスト州の先生方の連携がうまくいっており、検診の度に若い先生方が研修を兼ねて数人ついて来られます。加えて、ミンスクの医学再教育センターでベラルーシ全国から100〜200人の先生方(主に内分泌・代謝が専門)が集まって頂いての教育講演を毎年のように開いて頂き、甲状腺検診の必要性と方法、成果を報告してきました。
 数年前からはブレスト州立内分泌センターのグレゴロビッチ・アルツール先生(2005年からは所長)が甲状腺の穿刺吸引を行い、その補助をウラジーミル・シブタ先生が行い、又細胞診断はアルツール先生の奥様のアリーナ先生が行うようになり、広島の私のクリニックで行うのとほぼ同様の事が行われるようになりました。この3人の先生方は全員皆様の援助で広島に来られ、研修をされました。

 ブレスト州での検診には当初から「ベラルーシ赤十字」がコミットしており、2006年4月19日と20日にミンスクで開催された「チェルノブイリ原発事故20年の国際会議」でベラルーシ赤十字総裁から、我々の行ってきた日本からのボランティア医療支援とその成果に対する感謝の言葉が述べられました。私もその専門家分科会で「チェルノブイリ原発事故20年と甲状腺:ブレスト州での検診も含めて」という演題で、この10年間の検診結果の一部を発表させて頂きました。早く皆様にも報告させて頂けたらと思います。
 これまでの10年間の甲状腺検診は甲状腺癌を早期発見する事が第一の目的であり、第二は現地の先生方が、自分達の手でこれを行うように支援する事でした。それらの当初の目的は問題なく達せられたと思います。
 次に問題となるのは、本当に原発事故によってこれらの甲状腺癌が発生したのか、という点を鮮明にする事であり、又甲状腺癌の部以外の甲状腺に被曝の影響が見られるのかという事です。その為には私は、高度汚染(被爆)地と中等度汚染地、低(非)汚染地の三者を比較しなければいけないと思いました。高度汚染地にはストーリン地区が、中等度汚染地にはブレスト地区が、低(非)汚染地としてはビチェブスク州が相当すると思います。これらの比較をすると共に、これらの各地に広島の甲状腺検診システムを拡げようと考えました。これらが完成した時、ベラルーシ国民から我々のやってきた事、やっている事に本当の評価を下さると思っています。国家レベルではなく、ボランティア・レベルでも出来る国際的平和貢献です。
 しかし、残念な事が一つあります。甲状腺の穿刺吸引細胞診です。これまでの殆んどすべてがブレストの病院(ブレスト悪性腫瘍病院、内分泌診療所)に保存されているため、日本で行うように、同じ日にこれらの各地の甲状腺をゆっくりと顕微鏡下に比較することができないのです。国が細胞スライドの国外持ち出しを禁じているからです。そのため仕方なく、今年(2007)は山田英雄氏、星正治先生と三人でブレストに行き、時間をかけて前述した三地域の甲状腺を鏡顕し、被曝影響の差があるか、あるとすればそれは何か、を調査(鏡顕)して来たいと思います。
 最後になりましたが、今回第26次調査で、私、当クリニック検査技師久保田有紀さん、医療通訳山田英雄氏の三人が派遣されまして、ストーリン地区(高度汚染地区)で54人の方の甲状腺検診を行い、又「ベラルーシ医学再教育センター創立75周年記念式典(G.フルップ同センター所長)」に於いて、「日本における卒後研修について」というスピーチを行ってきました。今回のストーリン地区での甲状腺からの穿刺吸引細胞診の47例は、前回検診でのビチェブスク(低・非汚染地)の症例と共に、被爆の影響をみるために重要な役割をするものと思います。記念式典の出席者は約300人で、日本からの我々のグループのほか、ウクライナ、ロシア、ポーランド、中国など海外からの招待者が含まれていました。


ストーリン検診2006

 報告/久保田 有紀(臨床検査技師 広島甲状腺クリニック)

 この度、ストーリン地区における検診団に初めて参加することとなった。医療器具の持込の制限があり、不安を抱きつつストーリン地区病院に到着したが、検診におけるセッティングがアルツール医師他により、完全に整っていることに感激した。
 検診が開始され、日本とは違う穿刺吸引用のカテラン針に、戸惑いもあったが、迷惑にならぬよう、補佐に専念した。穿刺吸引している間、別室にてバロージャ医師が染色を手伝ってくださり、助かった。プレパラートの持ち帰りが不可能というのを事前に聞いており、検診後、染色、封入、検鏡の作業を全て終えなければならず時間にゆとりがなかった。また、検体に関して、尿や血液の持ち帰りもできず、例年行っている尿中ヨードや重要となるTgAb(抗サイログロブリン抗体)の検査も行えず、非常に残念だった。
ストーリン検診
検査を行う久保田さん

 初めてこのプロジェクトに参加したが、現地スタッフの手際のよさには、本当に驚いたし、ここに至るまでの多大なる苦労を垣間見たように思う。現地スタッフが日本の医療技術を習得し、要領を得ているおかげで、検診はかなりスムーズだったし、その他の作業も難なくやり遂げることができた。甲状腺における癌の発見率も上がったのではないだろうか。今なお、被曝の影響で苦しむ人々を、より多く救うことができる国になることを、心から願う。
次の頁へ 次のページへ
この頁のトップへ 上へ
■NPO法人 チェルノブイリ医療支援ネットワーク
    Chernobyl Medical Support Network
  〒807-0052 : 福岡県古賀市駅東2-6-26 パステル館203号
  TEL/FAX   : 092-944-3841   e-mail : jimu@cher9.to
  Copyright © 2011 Chernobyl Medical Support Network All Reserved.
ベラルーシ料理と民芸品の部屋
今後の予定原発事故支援運動・九州移動検診出版物通信リンクサイトマップ