チェルノブイリに関わる人々
チャリティヘアカット 影の仕掛け人
イラストレーター いのうえしんぢさん
「目や鼻や口、それぞれがあってこそ顔なのよ。」チャリティヘアカット当日、お客さんとして参加してくれた方がそう表現した。
まさしく、このイベントは別々の個性を持った人たちが集まり、それぞれがそれぞれに持っているものを出し合ってかたちにしたものだった。理美容師さんたちはプロの技術を、専門学校は会場と施設を、専門学校生は学んでいる技術と活き活きとした笑顔を、DJは心地よい音楽を、運営スタッフは積極的な行動と気持ちを、事務局は土台固めと具体的な実践を。ほかにも、手作りカップを貸していただいたり、手作りお菓子やハーブグッズを提供していただいたり、とてもあたたかかった。そして、お客さんとして来てくださった方たちひとりひとりがこのイベントをクライマックスへと導いた。
目は目に、鼻は鼻に、口は口にできることがある。口が目の役割をしようとしてもできないし、鼻が口の役割をしないからこそ、顔なのだ。
いのうえしんぢさんは、自らその顔の一部を成しながら、さらに、全体がどんな顔なのかをわかりやすくイラストやデザインに表現してみんなに紹介してくれる人。プロのイラストレーターで、チャリティヘアカットのポスターとチラシをデザインしてくれた。実は、雪だるま2号キャンペーンのチラシやポストカード、活動紹介リーフレットもいのうえさんのアレンジによるものだ。
どんなにいい活動、おもしろいイベントを企画したとしても、参加してみなければわからない。知らない人にそれを伝えるのはいつも難しい。チラシやリーフレットを見たとしても、目から入った情報がココロやアタマにどの程度伝わるのだろうか。そんなとき、いのうえさんのすてきなイラストやデザインは、しっかりと見る人の視線をつかまえて「内容を読んでみようかな」「イベントに参加してみようかな」という扉を開いてくれる。私は、これまでに何度もいのうえさんのイラストに笑顔をもらってきたように思う。
いのうえさんが、NGOや市民運動に関わりはじめたきっかけは、2001年の同時多発テロ。それまで、世界的な動きや問題などにはあまり関心を持たなかったが、「ただ祈ってばかりで良いのだろうか。何かやらねばいけないのでは…」と思い始めた。福岡でピースウォークが計画されているのを知ったが、参加すべきかどうか迷っていた。私にとって、いのうえさんとの出会いは印象的だった。彼は「こうした行動は自慰に陥りやすいんじゃないか。」という心の中のモヤモヤを率直にぶつけてきた。しかしその後のメールで「『この世界を動かしていくのは、ひとりひとりの人間である』という言葉を胸に歩こうと思います。」と返事をくれ、平和を意識し、モヤモヤを行動に変えはじめたいのうえさんは、一気にハジケた。
「フツーだと日常生活に追いまくられて『ホントはこうしたい!世界はこうあったらいいのに!』と思っていてもなかなかそう言えないし、ましてや実行できない。『国が悪い。世界が悪い。オレらが何かしてもどうしようもないやん』とやりすごしてしまいたくなる事、僕にも正直あります。でも、まわりまわって、自分を苦しめることになっちゃう。でも、だからってそこで黙ってみてみぬフリするのはカッコ悪い。すぐに結果はでないかもしれんけど『こうしたい!』って願うことぐらいいいんじゃない?」
いまや、福岡で市民運動をする人たちの間ではすっかり有名人。ときには「芸能人みたいねえ」と言われるような独特の風貌とハードロックなノリも、周りの人たちを引きつける。あまりの人気に、最近は寝るヒマもないくらいだという。そんなときにも、いのうえさんは『おもしろいこと』をつくり出すのをやめない。「もっともっとポップでユニークなやり方があるはず。」
いのうえさんがチェルノブイリの問題に関わるようになった動機は、広瀬隆さんの「危ない話」を読んだ衝撃、そして80年代に夢中になったパンクロックをつうじて核の問題ふれたことだったという。そして今、彼の中を流れるのは、ベラルーシの人々への愛情と親しみ。いつも彼の作品が力強さとしなやかさを持っているのは、そんないのうえさんだからなのかもしれない。 |