ブレストにおける第7回検診、第27次調査報告
医師の技術の向上と、現地の移動検診システムの有効性 このプロジェクトが、理想的に昨日していることを実感
報告/福間 由紀子(チェルノブイリ支援・広島医療協議会 運営委員)
10月20日から27日、ブレストの第7回検診・調査に参加しました。
現地は日本の真冬程度の寒さでしたが、初めての参加の私には、その寒さも心地よい緊張感を生むものとなりました。
ミンスクでは、ベラルーシ赤十字や日本大使館、ミンスク臨床悪性腫瘍病院、ミンスク医学再教育センター、小児血液センターを訪問し、10番病院での星教授(広島大学原爆放射線医科学研究所)と野宗医師(済生会広島病院)によるシンポジウムに参加しました。訪問した医療機関は清潔で、設備も整っているという印象です。特に小児血液センターは子ども向けのカラフルなデザインの絵表示があったり、院内学級や両親と一緒に食事するための部屋、イコンが飾られた部屋がなどがあり、子どもや家族の精神面への配慮もみられる病院でした。また、医学再教育センターでは、既に医師となっている人が、新しい情報や技術を習得することができるすばらしいシステムであると感じました。
24日、ブレストへ。数時間に渡る車での移動でしたが、見わたす限り遮る物のない平原の、緑や黄色の織り成す世界は、何時間見ても飽きることのない美しさです。この大地が22年前、静かに汚染されてしまったのかと思うと、ヒロシマとは違う核の脅威を改めて感じました。
翌日、いよいよブレスト州立内分泌診療所での検診視察です。この日は、今までの移動検診などで甲状腺に異常が見つかった人々が訪れていました。その中の数人にお話を伺いました。
昨年の検診団派遣の際乳頭癌が見つかり、日本医科大学で手術を受けたアリョーシャさん(20歳 ピンスク在住)もこの日訪れ、野宗医師による超音波診断で経過が良好であることが確認されました。
ここブレスト州立内分泌診療所で吸引穿刺を行っているのは、広島で二度の研修を受けたアルツール医師。最初の広島研修の時と比べると一回り体も能力も大きくなり、精力的に動き回っていらっしゃいました。検診に立ち会った野宗医師によれば、アルツール医師の吸引穿刺の技術レベルはかなり高いということです。
採取した細胞の診断は、広島で研修したアリーナさんができるとのことでしたが、現在彼女は育児休暇中で、今回は、渡會臨床検査技師(日本医科大学)が診断。同行した日本医科大学の鈴木さん、瀧音さんもプレパラート作りを手伝い、手際よく診断が進みました。この日3件の悪性腫瘍が確認されましたが、これは現地で行われている移動検診システムにより、異常のある人が既に絞り込まれているためだと思われます。
今回確認できたアルツール医師の技術の向上と、現地の移動検診システムの有効性は、現地で自立した検診ができることを目指すこのプロジェクトのサポートが、理想的に機能していることを示していると思います。
まだ細胞の診断が正確にできる人が足りないので、今後もこのプロジェクトを通じてHICARE(放射線被爆者医療国際協力推進協議会)などで研修を受けられるようにすることが必要だと思いました。また、医学再教育センターに日本の専門家を派遣して技術を伝えることも有効な方法かもしれません。
悪性腫瘍の手術が、ミンスク臨床悪性腫瘍病院でしかできないことは問題ですが、公営の医療システムにこのプロジェクトがどこまで踏み込むことができるか、今後の課題だと思われます。
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