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チェルノブイリ通信 No.71 (5)
2007年11月28日発行
行ってきました!初めてのベラルーシ
ゴメリの福祉工房「のぞみ21」スタッフを訪ねて
現地医師の成長と今後のチェルノブイリ支援の行方
ベラルーシでの検診に参加した医学生からの報告
甲状腺ガンの診断方法はほぼ完成!
いよいよ形になったこれまでの努力
医師の技術の向上と、移動検診システムの有効性
検診を受けた患者たちの声
今年で第4回目「チャリティヘアサロン・スネガビーク」  

ブレストにおける第7回検診、第27次調査報告
甲状腺ガンの診断方法はほぼ完成。
今後は別の方法での医療支援が必要

報告/野宗 義博(済生会広島病院)

検診
検診に来た患者のカウンセリングを行う野宗医師

 第7回目のベラルーシ被曝者検診と、ミンスク10番病院での医学シンポジウムに参加したので、その報告をする。

 今回、広島からは広大原医研の星教授、そしてロシア医学通訳の山田さんと福間さんが参加した。当初参加予定とされていた武市クリニックの院長と検査技師さんは参加出来なかった。

 今回ベラルーシ被爆者検診は、私にとっては初めてであった。私は武市先生と共に、ウクライナでの被曝者検診や、カザフスタンでの被曝者検診に毎年参加していて、今年5月にはウクライナでの検診を、また、9月にはカザフスタンでの検診に参加した。ベラルーシでの甲状腺検診の状況は、今まで何度も武市先生や山田さんから聞いており、今回初めての訪問ではあるが、あまりプレッシャーは感じなかった。

 10月20日(土)。前夜、広島班の4名は成田空港ホテルに集合し、尾崎さんから医療支援物質である多数の病理用のプレパラートを分配された。この重いプレパラートを、機内持ち込み用の手荷物としてミンスクまで運搬するのが、最初の医療支援であった。空港で東京班と合流し、モスクワ経由で翌日の深夜2時過ぎミンスクに到着。

 ミンスクの印象と言えば、街並みや道路事情だけからの判断であるが、過去の悲惨な歴史やチェルノブイリの放射線被曝の影響はみじんも感じられないくらい、街は立派に復興していた。ウクライナのキエフと比較すれば、ミンスクの方がよりヨーロッパ的で、街並みも整然としており、経済的にもよりすぐれているかのようだった。

 今回の私の役目は

 1) ミンスクでの医学交流レクチャー(広島での甲状腺外科の現状と、甲状腺癌手術の様子をDVD画像で紹介)

 2) ブレストでの甲状腺検診のサポート

 3) 顕微鏡画像をデジカメで撮影出来るかどうかの確認(武市先生の依頼)

 であった。

 10月23日(火)に、ミンスクの医学再教育センターを訪問。医師の卒後再教育システムが臨床系も基礎系も出来ており、近代医学を学ぶ機会が保障されているのに驚いた。我が国には存在しない優れた教育システムと思った。

 午後、第10番病院に移動し、医師を対象に医学シンポジウムに参加した。ここでは、星教授がベラルーシの土壌汚染について最近の知見を発表され、私は広島での甲状腺癌の現状と甲状腺手術の実際をDVDで供覧した。

シンポジウム
医学シンポジウムのようす

 翌日は、ブレスト市へ移動。途中、広島で研修された女性医師サバさんの所属する小児血液センターを訪問。この施設はオーストリアからの資金援助でミンスク郊外に建設されたもので、ベラルーシで最高の小児専門病院であった。外科的設備も充実しており、甲状腺癌以外のすべての癌の手術が可能であった。立派なICU設備もあり、多数の最新電子機器が配備されていた。また、最近増加している小児白血病にも対応し、化学療法病室や無菌室も準備されていた。骨髄移植も可能だそうだ。

 病室や廊下は多数の絵やかわいいポスターが飾ってあり、小児の心のサポートも十分配慮されていた。また、地下には生化学検査室や微生物検査室、免疫検査室、遺伝子検査室まで整備されていて、わが国の大学病院並みの研究施設が配備されていた。小児の医療費はこの国では成人と同様に無料で、どうしてこのような立派な病院の運営が維持出来るのか不思議に思えた。

 女性教授であるラリーサ医師と会談。彼女はサバ医師と同様英語が堪能であり、ウクライナと比べ英語をしゃべれる医師が多いように思えた。

 キエフから南西に約350Kmの所にあるブレストに2台のワゴン車で移動。ブレストはベラルーシの西の端にあり、ポーランド国境と数キロの場所にあった。この道路は、ドイツ〜ポーランドを介し、ミンスクからモスクワまでつながるすばらしいハイウエーで、いわばヨーロッパからの経済的な大動脈のようだった。途中、モスクワ方面に向かう、小型の新車を満載した多くの大型ドイツトラックとすれ違った。ハイウエーの両側には緑の大農場が地平線まで続いていた。

 10月25日(木)には、ブレスト州立内分泌診療所を訪問。ここでウラジミール医師とアルツール医師による甲状腺検診を視察した。

 ウラジミール医師が先ず甲状腺のスクリーニングを行っていた。甲状腺の性状、腫瘍の有無をドイツ製の小型ポータブルエコーで検診していた。

 それぞれの患者の甲状腺のエコー所見は、ウラジミール医師がしゃべる内容を横にいた看護師さんらしき女性(医療秘書?)がノートブック型のパソコンに入力していた。ウラジミール医師はエコーで検診し、甲状腺のカルテに異常部位とその大きさを図示するだけであった。

 そして、別室ではそのカルテを見て、アルツール医師が穿刺細胞診を行っていた。使用するエコーは、武市先生がいつも使っている日立製のポータブルエコーで、穿刺方法も全く同じ方法であった。また、穿刺吸引した組織の処理方法も、武市クリニックの検査技師(三本さん、横関さんや久保田さん)と全く同じ方法であった。

 アルツール医師による年間の穿刺吸引細胞診検査数は約3000例もあり、この病院では甲状腺癌の診断学はほぼ完成しているかのようだった。

 この日は約20数名の甲状腺検診があった。私が患者さんの甲状腺エコーを実際に行う必要は無く、アルツール医師の横で甲状腺所見を二人でディスカッションしただけであった。一人の慢性甲状腺疾患の中年女性が、乳がんの治療についてアルツール医師に問い合わせたので、彼に代わって、彼女の悩みや疑問に丁寧に答え、さらに食生活や生活指導まで行っておいた。

検診
ブレスト市での検診にて

 武市先生の依頼で、2年前に寄贈したデジタルカメラで、顕微鏡画像が撮影出来るかどうかを確認した。デジタルカメラや、顕微鏡の接眼レンズとカメラの接続部品はそろっており、撮影可能と思えたが、肝心のデジタルカメラが故障していて、今回も確認できなかった。デジタルカメラのシャッターが作動しないし、また、デジカメの液晶画面もなぜか故障していた。

 武市先生からブレストでの甲状腺検診の現状を聞いていたが、今回実際に彼らの検診状況を見させていただき、甲状腺癌の診断方法はほぼ完成されたようである。今後は別の方法での医療支援が必要となってくるであろう。

 10月26日(金)東京班をブレストに残して、我々広島班の3名はミンスクにベラルーシ赤十字のワゴン車で移動。翌日、モスクワ経由で10月28日(日)成田空港に到着し、今回の医療検診を終えた。

 
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