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チェルノブイリ通信 No.51 (2)
2001年12月20日発行
ベラルーシでの甲状腺検診の今
・武市医師との対話から
・イラストで辿る、工房「のぞみ21」との出会い
走れ雪だるま号 大友慶次さんからの報告
ベラルーシからの手紙‥‥力丸邦子さんの文通

今後の行方を追って・・・ 武市先生との対話から
「ベラルーシの甲状腺ガン」

データが示すその現状
15年、そして16年目を迎えようとするチェルノブイリ原発後のベラルーシ。毎年、甲状腺のガン検診のため、この広い大地を訪れ、患者と接するたびに、明らかにしておきたいと思うことがある。
 どれだけ患者がいるのか。甲状腺ガンは、増えてくるのか、減っていくのか。
 幸いにして、国立甲状腺ガンセンターから、甲状腺ガンに関するデータをようやく入手できた。長年、チェルノブイリの甲状腺ガンの問題に取組み続ける武市宣雄医師(広島甲状腺武市クリニック院長)とともに、このデータを読み解いていきたい。

表A 甲状腺ガンの年令別分布

年齢 1972-1985 1986-2000 total
0-14歳 8 705 713
15-18歳 21 271 292
19歳以上 1,443 6,536 7,979
合計 1,472 7,512 8,984

資料提供:ミンスク甲状腺悪性腫瘍センター、ベラルーシ赤十字委員会 (無断転載を禁ずる)

小児性甲状腺ガンの問題
 表Aでも分かるように、事故後小児の甲状腺ガンが急増した。これについて、武市医師は、こう説明する。
 「ご存じの通り、チェルノブイリ原発事故後、小児の甲状腺ガンが急増しました。それまでのベラルーシでは小児の発生率は年間100万人当たり一から3人でした。それが事故後、3、4年間で急に増大し始め、十倍から数十倍に上昇しました。そして、そのピークは8から10年後でした。これは1991年に示した私の予測通りでした。甲状腺の放射線感受性は小児に高いことが実証されたわけです。」
 甲状腺の放射線感受性は、小児に高い。つまり小さな子どもほど、放射能の影響を受けやすい。故に、チェルノブイリ原発事故で放出された放射性ヨウ素は、まず子どもの甲状腺にガンを引き起こした。
 だが、その放射性ヨウ素の半減期は1週間と短いため、チェルノブイリ原発事故に生まれた子どもへの影響はほとんどない。
 表Bが示す通り、小児性甲状腺ガンの発生率が年々、減少しているのはそのためである。
 チェルノブイリ原発事故が起こったのは、1986年。20025年を迎えようとしている今、年齢が15歳以下の子どもは、すべてチェルノブイリ原発事故後に生まれている。

甲状腺ガン発症率

一方、急増しているのは
 しかし、表 のなかで、その下降とは対照的に、年々急上昇している実線があるのに気づく。これは2000年において15歳から18歳の、つまりチェルノブイリ原発の事故当時、2歳から5歳だった人の甲状腺ガンの発生率を示す線だ。
 このグラフによれば、1995年には10万人に対して4、0人だった発生率が、1999年には6、6人、2000年には10万人に9、5人の割合で甲状腺ガンが発生している。
 では、実際に、何人の甲状腺ガン患者がいるのか。
 左の表に、ガン患者の数が示されているが、私たちが検診を行っているブレスト州、そして最も多くの放射能が降り注いだゴメリ州に注目してみよう。
 数という面ででは、表Cに示される小児性甲状腺ガンより少ないが、表Dから分かるように年を経るごとに確実に増え続けるその傾向が気になる。
 この先、どうなるのだろうか?年を経るごとに、甲状腺ガンの数は増加していくのだろうか?
 15歳から18歳の思春期という世代。それはまさにこれから大人になり、女性であれば子どもを授かり、母親になっていく年齢だ。

表C チェルノブイリ事故後の小児期における甲状腺ガン症例数

Region '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 Total
Brest 0 0 1 1 6 4 17 24 22 21 25 13 14 9 5 162
Vitebsk 0 0 0 0 1 3 2 0 1 0 0 0 0 1 1 9
Gomel 1 2 1 3 14 41 36 37 43 48 42 37 21 27 17 370
Grodno 1 1 1 2 0 2 4 3 5 5 5 3 4 1 1 38
Minsk 0 1 1 1 1 1 4 3 6 1 5 6 1 4 1 36
Mogilev 0 0 0 0 2 3 1 7 4 6 3 4 3 1 3 37
Minsk City 0 0 1 0 4 1 4 5 1 9 4 3 11 6 4 53
BELARUS 2 4 5 7 28 55 68 79 82 90 84 66 54 49 32 705

思春期における甲状腺ガン
 今、最も急増している思春期における甲状腺ガンの問題。それについて武市先生は、まずこの言葉から説明を始めた。
「思春期は人の成長過程で、甲状腺の肥大が最大になる時期です」
子どもから大人へと体全体が変わり始めるこの時期、甲状腺も最も大きくなろうとしているのだ。
 さらに武市医師の説明が続く。
「そのひとつの顕れが、思春期甲状腺腫と言われる形ででてきます。特に、この時期の女性は妊娠、出産を控え、ほとんどの内分泌ホルモンが完成する大切なときなのです。」

表D チェルノブイリ事故後の思春期における甲状腺ガン症例数

Region '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 Total
Brest 0 0 0 0 1 1 0 4 6 7 5 2 11 11 12 60
Vitebsk 1 2 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 0 0 1 7
Gomel 0 1 0 1 2 6 1 8 8 12 9 17 16 24 34 139
Grodno 0 1 0 0 0 1 1 0 2 0 2 2 0 1 1 11
Minsk 1 1 0 0 1 0 2 0 0 0 1 2 1 1 4 14
Mogilev 0 0 0 0 0 0 2 0 0 1 0 0 3 6 7 19
Minsk City 0 0 2 0 0 0 0 4 2 2 1 3 4 0 3 21
BELARUS 2 5 2 1 4 8 6 17 19 23 18 26 35 43 62 271

思春期は、甲状腺ガンが発生しやすい時期
 日本でも思春期における甲状腺ガンの発達はそれまでに比べて高くなっていくという。武市医師によれば「広島市では1991年から1995年の間、甲状腺ガンの発生率は、女性に限った場合、10歳から14歳の小児では年間100万人あたり6人。が、15歳から19歳では14人」になるという。
 「したがってベラルーシでも同様の傾向がみられることは当然のことです」と武市医師は言って、その後「しかしその増え方が異常なところに問題があります」と付け加える。
 武市医師の心配は、さらに将来のことにまで及ぶ。「この人たちの妊娠、出産、そしてこの人たちから生まれた子どもたちの健康に影響はないかも問題となります」

変わり続ける甲状腺の問題
チェルノブイリの甲状腺の問題は、時とともに移り変わっている。最初は、とにかく子どもの甲状腺ガンを救いたかった。それが減少する一方で、今、思春期(15歳から18歳)における甲状腺ガンが増えている。
 そして、武市医師の指摘はさらにその先をいく。「チェルノブイリでの甲状腺検診は思春期、青年期の人たちを加えてますます重要な時期にはいります」
 「人の健康にとって基本的に、最も大切なホルモンを作る」甲状腺という器官。チェルノブイリ原発事故が残した問題は、依然としてその重要な器官に残り続けているのだ。
 子どもから、思春期、さらに、新しく生まれてくる生命にまで、影響が及ぶベラルーシの甲状腺ガン。片時も油断できない状況だ。 (取材・矢野宏和)

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