活動報告会レポート 誰も知らない20年目のチェルノブイリ 〜最新情報による現地からの報告〜
文 三島さとこ(チェルノブイリ医療支援ネットワーク事務局)
1997年にスタートしたベラルーシでの甲状腺ガン検診プロジェクトから今年で10年目を迎えます。これを記念して、これまで幾度となくベラルーシを訪問された医療専門家の方々を福岡市へお招きしての活動報告会「誰も知らない20年目のチェルノブイリ〜最新情報による現地からの報告〜」を3月18日に福岡市内で開催しました。
今年はNPO法人元年でもあり、報告会ではまず挨拶もかねて、矢野理事長より今後の支援活動に対する決意表明が述べられました。その後、医療専門家による報告会が行われました。今回お越しいただいたのは、武市宣雄先生(広島甲状腺クリニック院長)、久保田有紀さん(同クリニック臨床検査技師)、星正治先生(広島大学原爆放射線医科学研究所教授)、そしてロシア語医療通訳・コーディネーターの山田英雄さんの4名でした。
最初の報告者は星先生。放射能(放射線)について身近な例も取り上げながら、チェルノブイリだけでなく、現在調査中のセミパラチンスク(カザフスタン共和国・旧ソ連時代に核実験が行われた場所)などの話も織り交ぜて、わかりやすく説明していただきました。講演の中で星先生は、なぜ被曝線量を測定するかということについて説明されました。まず一つは被災者自身の治療、健康維持のために。そしてもう一つは一般の人々のためであり、放射能の危険性を前もって認識しておくが大事だというお話に、なるほどと納得しました。現在チェルノブイリ医療支援ネットワークがベラルーシで取り組んでいる甲状腺ガン検診プロジェクトについても、医師による診察だけでなく、同時に放射線量の測定も行うことでそのデータ結果がより正確なものになっているのだなと実感しました。
次は臨床検査技師の久保田さんより、昨年秋のベラルーシ・ブレスト州ストーリン地区での甲状腺ガン検診についての報告が行われました。久保田さんは昨年はじめてベラルーシを訪問されたということもあり、期待と不安を抱いての訪問だったご様子が報告からも伝わってきました。ストーリン検診のことだけでなく、ベラルーシの街並みや人々の様子についても触れられており、参加された方々にもベラルーシがどんな国なのか想像しやすかったのではないでしょうか。報告の最後にはこれまでの検診結果について発表されました。あらためて10年の積み重ねを目にし、これはこれまでに関わって下さった医療専門家の方々の地道な活動の成果なんだなと感じました。
そして引き続き武市先生より、これまでのベラルーシでの甲状腺ガン検診について総括的な報告が行われました。専門的な内容で少々難しいところもありましたが、時折広島弁を混ぜての報告に会場からも笑い声が聞こえていました。過去の検診での苦労話や今後の展望など、プロジェクトの開始当初から活動に参加されてきた武市先生ならではの報告で、そのお話にも重みが感じられました。
最後はロシア語医療通訳の山田さんからの報告でした。山田さんは昨年チェルノブイリ原発事故から20年目を迎えた被災地ベラルーシ・ウクライナに長期滞在され、そのときに見たチェルノブイリの現状についてお話されました。汚染地域に暮らす人々の様子や当時の原発労働者の町“プリピャチ”の様子など、スライドの映像もインパクトがあり、どれも興味深い内容でした。事故から長い年月が経過し、次第にチェルノブイリに対する関心が薄まっていると感じる昨今ではありますが、こうやって現地の様子を目に耳にすることで、被害の大きさやそれと向き合っている人々が今もいるということが強く心に残ります。参加者の皆さんにも、この報告会をきっかけにチェルノブイリについて考えていただく機会になるとうれしいです。
事前の広報不足のため参加者がそれほど多くなかったのが残念でしたが、参加者からは「今日の報告は、これまでのベラルーシでの地道な作業の積み重ねということがよくわかった」、「山田さんの報告を聞いて、現在のベラルーシがどういう状況なのか、人々が何を思い、考えているのか垣間見れた」といった感想をいただきました。
はるばる広島からお越しくださった星先生、武市先生、久保田さん、そして山田さん、本当にありがとうございました!
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